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第1回11枚小説 選者クロスグリ 個人表彰枠

【 ギアーズ イン ザ スチーム  】

作 三衣 千月

 機械は人々の生活を豊かにする。だから機械を動かすために、人々は働く。機械を使っているつもりが使われている……そんな矛盾が常識となっている街が、最初に登場する。主人公の少女はそんな街のなかで暮らし、働く「内側の人間」だ。そこに少女とは見た目も考え方も違う少年……「外側の人間」が現れて、少女にとっての未知と非常識の塊を投げつける。少年の言葉は理解しがたいが、確かな刺激となり、機械に染まった少女の理性に小さな衝動を植えつける。触らなければいいはずの熱い鉄管をつい触ってしまう少女の心の中では、たしかに感情が揺れ動いていたのだ。 短くまとめるとこういう話です。社会性と人間心理を上手く絡めつつも同時に書けてしまう構成力は今回の企画で一際輝いて見えましたし、どちらも書ききれる文章センスも圧巻でした。歯車を社会の象徴として描かくのは珍しくはないのですが、それに対して個人の象徴として車輪を持ち出す発想も個人的に好きです。何かを動かすための歯車と、自分一人で動く車輪……どちらが正しくて優秀かという優劣は存在しませんし、この作品でもそのように書かれていませんが、最後に垣間見える「自分は歯車だけど、車輪も良いものなのかな?」という感情の揺れ動きは、記憶に焼き付くインパクトがありました。

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