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第1回11枚小説『総評』

 

 1月末に公表し2月末に締め切った第1回11枚小説コンペ、ギリギリの短期間の開催であるにも関わらず、16作品という多数のご応募をいただき誠にありがとうございました! いよいよ審査結果を公表するわけですが、その前にご応募作品全体に対する総評を述べさせていただきます。

 まず最初に――
 俺、今回のコンペ、SFコンテストとは一言も言ってないから!(笑)
 なんかごく一部に『美風が主催するSFコンテスト』と思われていたようです。どっから出てきたその話(笑)いやいや、これ課題付き掌編小説コンペだから(汗)

 

 次に本題です。
 ご応募いただいた総数は16作品、ミリタリー、ゴシックスチームパンク、ファンタジー、アクション、社会風刺、ホラー、カーレース、ヒューマンドラマ、ラブロマンス――、実に多彩な作品群が集まってきました。作り手様方の発想の多彩さと才能の広がりに敬服するばかりです。お見事!
 また、今回の課題である『歯車』と言うキーワードの消化方法についても、作り手の方の才能の多彩さを象徴するようなバリエーションの多さで、よくもまぁこの原稿用紙11枚と言う狭小スペースに見事に納め、なおかつ分量を使い切ったと感心するばかりです。
 ただその課題消化の方法とレベルについては、書き手の方の実力が如実に現れたような気がしました。上位3作品やSランク評定に達した作品はいずれも「なぜ、歯車でなければならないのか?」と言う点を見事にクリアしており、なおかつ「歯車と言う単語に対する〝付加価値〟の付け方の巧みさ」が見事でした。
 
 反対に「単に言葉をタイトルに当てはめているだけ」「歯車である必然性がない」と言う例も散見されました。この点は課題付きコンテストと言うスタイル特有の問題であり不慣れな方も居られたと思います。もし次回も参加なされるのであれば、さらなる熟考と切磋琢磨を期待する物です。
 
 次に目立った問題が『尺』の問題です。
 原稿用紙11枚=4400字という極めて小さな空間であり、そこにいかに物語とその情報を収めるか? と言う重要な問題が有るのですが、コレにも書き手の力量の差が現れていました。
 過不足無くしっかり枠ぴったりに収める作品、
 大量に余ってしまい削りに削って無理やり納めた感がある作品、
 逆にスペースが余ってしまい埋めるのに苦労した作品など、掌編小説と言うジャンルへの適応の仕方に個人差が目立った形になってしまいました。
 理想としては4400字の枠をフルに使い切った状態で、序破急の物語の流れと盛り上がりを1エピソードでしっかり納め、それでいて必要以上に削らないと言う繊細な文章量コントロールが求められるのです。
 この作業は、作り手の方が将来プロとして作家活動をすすめるにあたり、編集サイドの求める文字数・ページ数をいかに適切に消化するか? と言う現実的な問題のトレーニングにもなります。作家は編集が『原稿用紙40枚で頼む』と言えば、しっかり40枚で書かねばなりません。『足りないからあと10枚』などと言う作家には次の仕事は回ってきません。雑誌や単行本を作る上でページ数と文字数は絶対条件だからです。
 この点は今回の11枚小説では『裏テーマ』として徹底的に厳しく査定しました。特に入り切らず削りまくった作品、余裕を埋めるために苦労した作品には厳し目に査定してありますのでご了承を。
(愛のムチです!)

 さて実はこの11枚小説だとこの文字数制限に収めるために重要な点がもう一つあります。
 それが――『文章力』です。
 文章量が少ないから。収めるのに削る作業が必ず発生するから。それを作業後も読みやすくするためには、適切な文章力が求められます。
 読みやすい、1人称3人称の選択が適切である、主語述語動詞の文法が適切で理解しやすい。そもそも何を言っているのかが読者に明快に伝わる。小説としての基本的な部分が余分な余裕のない狭小な文章量だからこそハイレベルなかたちでもとめられるのです。
 これについては『努力してください』としか言えません。そしてAランク以上の上位に食い込んだ作品群は間違いなくこの点をクリアできています。評点がSランクで無かったからと言って落胆しないでください。
 
 結論としては第1回と思えない位のハイレベルな闘いだったと思っています。
 これを発表から1ヶ月と言う短期間で書き上げ提出して頂いた方々には頭が下がる思いです。敬服するより他はありません! そして、この突発的な企画にお付き合いいただき、誠にありがとうございます!
 
 さて以下にSランク上位作品への個別寸評を行います!
 
最優秀賞(第1位):「君に贈る匣」 作 ながる

 

 すばらしい! その一言に尽きます。多くの作品がファンタジーやSFや組織論に走る中で、数少ないヒューマンドラマとして成立している点。そして課題の歯車を象徴するアイテムが、登場人物たちの間の人間的な絆とその成長の証として物語の中で度々登場し、まばゆいばかりの存在感で描けている事を特に評価したいと思います。ラストシーンが美しい!
 
優秀賞(同率第2位):心臓の歯車 作 Veilchen

 

 ゴシックスチームパンクファンタジーとして、歯車と言う物をその世界観の中で得に価値ある物として存在させ、その作中で巧妙な『伏線』として存在させ、なおかつラストシーンで、その世界の中での『歯車と言う物の価値』が明かされたときの、それまでのシーンでの、登場人物たちが互いに思いやっていた深い情愛の物悲しいまでの重さ暖かさが紙面から伝わったときの驚きと感動は今でも忘れられません。惜しくも審査員評点の結果で最優秀賞は逃しましたがワタシ的には同率1位でもおかしくない作品だと思っています。
 
優秀賞(同率第2位):ハグルマ狩り 作 たびー

 

 こちらも先の2作品と最優秀賞の座を競い合った傑作です。歯車ではなくハグルマとして世界観の中で特に重要な事物として存在させると言う手法は先の心臓の歯車でも見られましたが、ここではそのハグルマにまつわる悲劇と、その悲劇の見守り手としてのハグルマ狩りのキャラクター造形の見事さが光りました。さらには語り手の人物や、街角の人々など、その構成要素の多さにも関わらず、11枚という規定を見事に使い切り、過不足無く納め切った力量には感服しました。
 惜しくもこちらも最優秀賞は逃しましたが、私としてはこれらの3作品はどれが最優秀賞でもおかしく無かったと今でも思っています。

第4位(同率2位が2作品のため):新兵少女の初任務~兵士志望だったのに特殊工作隊に配属されて不満です 作 アウトサイダーK

 

 惜しくも優秀賞枠を逃してしまいましたが、コレも大変に完成度の高い傑作です。特に登場人物や構成要素の多さに本当に11枚に収まっているのだろうか? と訝しみましたが、その疑念を吹き飛ばす構成力の高さはあまりにもお見事です! ただ――、課題消化としては『組織論としての歯車』と言う物でそれ自体は素晴らしかったのですが(特にオチでの解釈の鮮やかさ)、先の上位3作品と比べると、課題キーワードのドラマ内での存在感やドラマ性などの面でもう少し工夫が欲しかったと思います。

第5位:戦闘人形と修理士 作 白藤結

 歯車=自動人形=ロボット・アンドロイドと言うストレートな解釈で、戦争の悲劇や種族差別などに強く踏み込んだ問題作でした。そのドラマ性とキャラ造形、そして語り口の印象的な点や、演出としてのセリフ回しの妙など高く評価すべき点は多々あったのですが、文章力の熟練度や細かな文字運びや文面などで、惜しくも上位作品と差をつけざるを得ませんでした。将来への可能性は十分に秘めています!

第6位:歯車人間 作 タツマゲドン

 今回の11枚小説コンペの中で最大の問題作です。明らかに読む人により評価が乱高下する作品です。人によってはすばらしい! と太鼓判を押す人も居れば、重箱の隅を突くように色々と指摘する人も居る――そんな作品です。
 ゲスト選者のクロスグリさんは太鼓判でしたが、私としてはその構成方法に疑問がありました。
 社会風刺の毒っ気としては猛毒レベルです。そこはすごく面白かったです!

 


――以上、Sランク6作品です。

 

 コレ以外の作品の方々、落胆しないでください。
 この短期間で11枚と言う壁にいどんだその勇猛さはすばらしいです!
 11枚小説は『言葉のバトル』です。
 その熾烈な闘いに挑み、戦歴を刻んだことを誇りに思ってください。
 
 ご参加、ありがとうございました!
 
 
ζ
■D:美風慶伍


 追記
 
 
 さて! 今年の夏、開催の第2回11枚小説コンペ!
 その課題をフライング公開です!
 
 第2回お題『ヒーロー』
 
 さて、この単語をどう料理するか?
 普遍的であまりによく見かける――、
 そう、普遍的であると同時に、あまりに通俗的で陳腐であるゆえに、これを価値あるドラマとしてどうブラッシュアップ出来るのか? 今回の歯車以上の難課題になるのは間違いありません!
 さあ、諸君! 君たちの挑戦を待っているぞ!

 

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